2020.08.26 13:55短編『夜10時半のポテトサラダ』男は携帯を見ながら帰り道を歩いていた。反対側の道路では、交通誘導員の中年男性がぐずぐずと赤い棒を振っている。男はスーパーにでも寄って帰ろうと考えながら歩く。その歩く自分の左足が次に地面に着いた時、男は違和感を覚えた。着地した時の音が「コツ」ではなく「ふにゃり」だったからである。男は慌てて携帯から地面へと目を向けた。なにか白いかたまりが男の左足の周辺にペタペタと落ちていた。吐瀉物か。男は嫌な顔をした...
2020.08.25 13:15高3コロナ世代甲子園の交流戦が終わった。「1試合でもさせてもらえてありがたい」「今度は自分たちが人の役に立てるように」と(たとえカメラサービスだとしても)言える高校生たちには頭が下がる。一律「やらない」と決めることは簡単だ。とりあえずそれ以降考えることはない。しかし、「やる」と決めたらこれは大変である。どうやってやるかを常に考えなくてはいけないからだ。選手たちは実直に、グローブで口を覆って作戦会議をしていた。ハ...
2020.08.05 13:48おばあさんとのひと時地下鉄の駅の2階から地上階を経由して改札階に降りるエレベーターに乗った。おばあさんと、おじさんと僕。おばあさんが、おじさんと僕のどちらにというわけでもなく「新宿に行きたいんだけれども…」と発した。僕はこういう時の初動が遅いようだ。どういう風に出ようか窺っているうちに、おじさんが返答する。「そんならJRだな」おばあさんは、何を言っているか分からない、という顔をした。「こっからだと一回JRの駅に行って...