おばあさんとのひと時
地下鉄の駅の2階から地上階を経由して改札階に降りるエレベーターに乗った。
おばあさんと、おじさんと僕。
おばあさんが、おじさんと僕のどちらにというわけでもなく「新宿に行きたいんだけれども…」と発した。
僕はこういう時の初動が遅いようだ。
どういう風に出ようか窺っているうちに、おじさんが返答する。
「そんならJRだな」
おばあさんは、何を言っているか分からない、という顔をした。
「こっからだと一回JRの駅に行ってからじゃないと」
おじさんがそう言いながらも、エレベーターは地上階に到着。
おじさんは急いでいたらしく、足早に去っていった。
エレベーターの開くボタンを押しながら「どうします?」ととりあえず話しかける。
「JRっていうのはどこなの?」
「もうちょっと向こうの方に歩いていくとJRなんですよ」
「遠いの?」
うーん。
JRまで案内すべきか。
しかし、良いタイミングで思い出した。
地下鉄も新宿を通るのだ。
「地下鉄でも新宿行けますよ。ちょっと時間かかるかもしれないけど」
「急いでないからいいわよ」
「じゃあこのまま行きましょっか」
エレベーターの閉じるボタンを押す。
「関西の方?」
唐突に聞かれた。
「いや、関西ではないですねえ」
「あらほんと」
「関西だと思いました?」
「なんかね、雰囲気が」
僕は関西の雰囲気を醸し出していたらしい。
「ごめんなさいね」
謝られてしまった。
「あ、でも愛知にいたことはありますよ」
適当な謎のフォローをしてしまった。
フォローになっていたのかどうか。
おばあさんは無言だった。
改札階に着く。
「そこのホームで待ってて下さいね。そしたら電車来るから」
「ありがとうねえ」
「お気をつけて」
僕は反対側のホームへ。
なんだか好青年を演じてしまった。
演じたわけではないけれど。
…おばあさんって喋りやすいな。
この辺で擱筆。
写真は「どっちやねん。」
0コメント