危険がいっぱい
電車の中でネタを考えていたがなかなか思いつかず、ふわっと人間観察をしていた。
ドアの前に立っている女の人は、ドアに手を当てて身体を支えているのだが、中指、薬指、小指で押さえていて親指と人差し指はくっつけて輪っかにしている。
OKマークをどこかの線路沿いで待ち構えている仲間に見せるのだろうか。
それとも熱心な仏教徒だろうか。
隣の若い女の人はLINEをしている。
友達とだろうか。
メッセージが見えてしまう。
「その会社でやってけんの?」という友達からのメッセージに、「やっていけないマジヤバい」と返していた。
やっていけないんかい。
良い職場を見つけてほしい。
それか、あなたがその会社を変えてしまったらいい。
若い男の人は、ミゲル・シカールという人の『プレイ・マターズ-遊び心の哲学』という本を読んでいる。
それっぽい本読んでるなあ。
信用ならんぞこういう本読んでる人は。
でも、ネットでその本を検索してみたら、意外と面白そうだった。
シカールさんはゲーム研究者らしい。
今度本屋で探してみよう。
熱心に携帯の画面をこすっているおばさんもいる。
なんか永遠に上からカラフルなボールが落ちてきては並び順が変わって消えて、というのが繰り返されている。
受動的な遊びだなあ。
能動的になることはエネルギーが要ることだから、受動的な遊びの方が脳は楽なんだろうけれど。
実はそのゲームの開発者で、テストプレイをしていた、とかであってほしい。
それだったらスーパーおばさんだな。
だとしたら『プレイ・マターズ-遊び心の哲学』も読んでるな。
「やっていけないマジヤバい」の女の人はその会社で働いてたりして。
実はおばさんを筆頭としたすごくブラックな会社だったりして。
OKマークの女の人も、電車の中でそのゲームをやっている人がどれくらいいるかを探って、結構やっている人が多くて、「これは売れます!」と外の線路沿いにいる社員にいち早くゴーサインを出していたのかもしれない。
僕以外はみんなグルなのかもしれない。
だとしたらやはりネタなんか考えている場合じゃないな。
最寄り駅に着いて、足早に電車を降りる。
危ない危ない。
ゲーム会社の集団に捕らわれるところだった。
一生、開発中のゲームをさせられる被験者になるところだった。
身の周りには危険がいっぱいだ。
そんな世界で生きる。
この辺で擱筆。
写真は「Mont Blanc」
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