傘とおかめと気にするボーイ
とあるビルを出る時のこと。
僕は入り口のドアに向かって歩いていた。
同じタイミングで、おばさんがビルに向かって歩いてくる。
おばさんが一瞬先にビルの入り口にたどり着き、ドアを開ける。
おばさんは中へ入ってきて、僕のためにドアを押さえた。
ここで問題が発生。
おばさんがドアを押さえているその向こう側に傘立てがあって、僕の傘はそこに置かれているのである。
傘を取ろうとすれば、おばさんはドアを押さえる手を一度離してどかなくてはいけない。
それはおばさんの好意をふいにすることになるなあと考える。
し、なんか気まずくなるだろう。
おばさんは、おかめのような、優しさのかたまりみたいな顔をしている。
この顔を強張らせてしまうようなことはできまい。
ということで、気にしすぎな僕は、「ありがとうございます」と外に出た。
外に出て、数歩行って立ち止まる。
こっそりドアから中をうかがう。
おばさんはエレベーターに乗り込んだ。
エレベーターのドアが閉まる。
表示階が変わる。
僕はもう一度入り口のドアを開け、傘立てから傘を取る。
まあ、これでいい。
おばさんのおかめ顔を守ったということで。
小さいことを気にする人の方がこういう日常のすみっこに物語を見つけられるかなあと思うことにして、よしとする。
大雑把代表みたいな人と、同じ状況に置かれて、それぞれどういう展開になるか違いを検証してもらいたいなと思った。
この辺で擱筆。
写真は「まし。」
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