愛くるしいひと頑張り

薬局に向かう途中のことである。



車道の道路工事が行なわれていた。

低めのフェンスが立っているが、歩道を歩く分には特に支障ない。

誘導のおばさんが立っている。

通ろうとすると、おばさんが「どうぞお通り下さーい」と、電気のついていない誘導灯を振って私を通した。

言われなくても通る。

特に何も言わなくてもいいのに、おばさんは私にわざわざ声をかけた。

通り過ぎて振り返ると、おばさんは、また別の人を、優しい顔で誘導していた。



イタリアンレストランの店の外壁の塗装をしているお兄さんがいた。

横にいる店主が「そっちは、全然、大丈夫ですよ?」と言っている。

「いや、せっかくなんでやっときます。お代結構ですんで」塗装屋のお兄さんは、すがすがしい顔をして言った。

店主は、少し笑って会釈し、店の中に入っていった。

その顔が、喜んだ笑顔だったのか、苦笑いだったのかは、私には分からなかった。

お兄さんは、気合いを入れ直して、白いペンキを再び塗り始めた。



みんな、誰かに必要とされたいのだ。

やらなくてもいい部分を、もうひと頑張りして、自分を見せるのだ。

それがたとえ空回りしたとしても、それをスカした奴が馬鹿にしたとしても、やってしまうのだ。

愛くるしい生き物である。

私は、薬局に入り、このあとの先輩社員たちとの飲み会に備えて、参加者分のドリンク剤を買った。

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