現実世界じゃ言えない。

アパホテルが安価で宿泊できるキャンペーンをやっているらしい。


ホテル産業も苦境である。




ある日の職場で、上の人が今度泊まると言っていた。


僕もなんとなくその会話のゆるい輪の中に入ってはいたのだが、会話に加われなかった。


なぜかというと。




やはり「え、アパ不倫ですか?」が最初に浮かんでしまったからである。


そしてその人は「アパ不倫するかい!」とか「袴田さんじゃないのよ」とツッコんでくれるタイプではなかったからである。


そんなん言ったら空気が凍りつくんだろうなあ、などと思いながらそっと聞いていた。


特にアパ不倫に関する言葉は周りから出ず、つつがなく会話が進んでいった。


みんな頭の隅の隅をかすめはしていたはずだけどなあ。




ここでこれを言ったら絶対にアウトだ、という言葉を探してしまったりする時がある。


完全なる悪癖である。


一言で空気を凍りつかせることは、一言で笑いを起こすよりはるかにたやすくできてしまう。


そういうアウトな言葉の選択肢を消して消して、人は適切な言葉を返すのだ。


だから面白い。


頭に浮かんだことと実際に口にする言葉が違ったり、不用意にアウトな言葉が口をついてしまったり、我慢の限界が来て全て吐き出したり、そんなところにドラマが生まれる。




どうなるか検証するために「アパ不倫ですか?」をアホなフリをして言っていたらどうなっていただろう。


パラレルワールドの僕はきっと言ってしまって顰蹙を買っていることだろう。


物書きは、現実世界の自分には言えないことを、お話の中で登場人物に言わせて発散しているという説もある。


こじらせているなあ、物書きは。


そんなこじらせもまた一興。


一難去ってまた一興。


この辺で擱筆。

写真は「日本一低い公衆電話」

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