パスケース紛失物語
夜、帰宅しようと思った時、パスケースがないことに気づいた。
ものがなくなった時というのは、なんとも言えない焦燥感に駆られる。
落ち着くために、井上陽水『夢の中へ』を頭の中で流しながら。
心当たりのある場所を探して回る。
カバンの中や、着替えを置いた後ろの方の机。
昼にトイレで着替えたことを思い出し、そこにも行ってみるが、ない。
困った。
探す当てがなくなる。
なくなると、急にどこを探していいのか分からなくなる。
向いのホーム、路地裏の窓。
こんなとこにいるはずはないよなあ。
残念ながら、誰かに取られてしまったかな。
途方に暮れていると、館内の人が声をかけてくれた。
地下1階に管理人室があると教えてくれた。
管理人室へ。
忘れ物お届けの場所は、少し別のところにあるらしい。
案内してくれた人は、カードキーみたいなのを使って、2つほど扉を開けていく。
極秘ミッションみたいで少しワクワク。
奥の方に忘れ物お届け場所が。
窓口の警備員さんに尋ねる。
「それらしきものが1点届いています」と。
え。
持ってきてくれたのは、僕のパスケースだった。
やっと再会。
なんか厳重にビニールにくるまれている。
身分証を出して、書類に書き込んで、パスケースを受け取れた。
なんだか愛おしく見える。
ごめんよー。
最後に「どこにあったとか、ご存知ですか」と聞くと「届けていただいた方が、トイレの個室にあったと仰ってました」。
良かった。
僕の探した場所は間違っていなかった。
にしても、ちゃんとお届けしてくれる拾った人、優しいな。
世界は、思ったよりも優しかった。
誰かに取られてしまったかな、と思ってしまった数分前の自分を叱る。
そして、そもそも、ものをなくさない人でありたいなあ。
この辺で擱筆。
写真は「金平糖でありました。」
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