背中の目
帰り道でのこと。
電車に乗ろうと改札をくぐり、ホームへのエスカレーターを降りる。
ホームには、電車が停車しているようだ。
僕が帰る方向の電車。
発車ベルが鳴り始めて、僕はまだエスカレーターの中腹である。
エスカレーターは、横幅が1人分の、細いタイプ。
少し前にはハイヒールを履いた女の人がいる。
どうしようか。
一応、歩き出してみる。
乗れたらいいけれど、まあ乗れなくてもいいか、ぐらいの気持ち。
すると、前にいた女の人は僕の気配に気づいたらしく、歩き出した。
この人も乗ろうとしているのか?
それとも僕に道を開けてくれるのか?
歩きながら女の人の行く末を見守る。
女の人は下まで着くと、来ている電車とは反対側の方へ向いた。
ああ。
やはり僕のためにサッと道を開けてくれたのだ。
ハイヒールなのに、スタスタと歩いてくれたのだ。
かっこいいな。
よく背中でそれに気づいたな。
結果、発車ベルが鳴り終わった辺りで電車に乗れたし、ギリギリ駆け込み乗車ではないぐらいの感じで済んだ。
閉まるドアから、女の人の背中を見る。
後ろ姿は凛としている。
一応、ありがとうということで会釈をしてみる。
すると、女の人は、後ろ向きのまま、手を挙げた。
え。
僕の「ありがとうございました」が後ろ向きでも見えていたのだ。
もしくは、「あの人はお辞儀的なことをするだろうな」という予想のもと手を挙げたのか。
…いずれにしても、かっこいい。
背中に目がついているのだろうか。
結局、全く顔を見ることなく終わった。
勝手に、米倉涼子さん的なビジュアルを想像しながら帰った。
この辺で擱筆。
写真は「短縮して?」
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