石焼き芋

石焼き芋の移動販売車が止まっていた。

意外と近頃見ていなかったので、嬉しくなるほどではないがそれなりの正の感情になった。

「いしや〜きいも〜おいも〜」という、全国で統一されているかのようなあの宣伝文句がかなりの音量で流れている。

ただ、そのあとの文言が独特だった。

「ぽっくりと、甘くて大きい、おいもはいかがですか。ぽっくりと、甘くて大きい、おいもだよ。いしや〜きいも〜おいも〜…」

あの世へ行ってしまう時以外に「ぽっくりと」という副詞を耳にすることはあまりなかったので、思わず聞いてしまった。

「ほくほく」「ほかほか」「ほっくり」「ねっとり」辺りは、焼き芋の形容によく使われる印象があるが、「ぽっくり」はなかなか攻めていていい。

言われてみれば、「ほ」よりも「ぽ」の方が、みずみずしさやあたたかさを含んでいるような気もする。

売り手が自分で考えて誰かに「この文言でお願いします」と頼んだのだろうか。

自分で声を録音したのだろうか。

それとも、焼き芋屋さん用にいくつかある売り文句サンプルの音源のひとつなのだろうか。

気になって考えている間に、販売車は次の場所へとゆるゆる走っていってしまった。



家路を歩きながら、今年の目標のひとつを決めた。

今年は、気になったことに駆け寄って、突撃しよう。

謎を謎のままにせず答えを導き出すためにちょっとあくせくしよう。

次に石焼き芋の移動販売車を見かけたら、今度はなぜこの音源にしたのか、どうやって作ったのか聞いてみる。

ついでに、石焼き芋屋さんになった理由なんかも聞けたらいい。

そして、焼き芋をひとつ買って、そんなエピソードを背景にして食べよう。

この辺で擱筆。
写真は「久々に見たマイルドセブン。」

演劇集団 東京直角街

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