横断歩道(男Aの視点から)

50mほど先の横断歩道の青信号のゲージみたいなやつが残り1つになった。


渡りたい。


小走りになる。


青信号は点滅し始めた。


僕は小走りする。


全力ダッシュできないのは、必死に生きている感を出さないようにしたいからである。


信号1つに振り回されている感を少しでも減らすためである。


しかし、小走りが仇となり、横断歩道に差し掛からんとするところで信号は赤になった。


やってしまった。


やむなく切り替えて一瞬で頭を回転させる。


走り方はどうあれ、このまま横断歩道のところで止まったら、走ったけれど信号に間に合わなかったヤツである。


それはあってはならない。


僕は、横断歩道をそのまま小走りで通り過ぎた。


あっちに用があって小走りしていたら、たまたま信号が変わるタイミングだっただけですよ、みたいな顔をして通り過ぎる。


本当は、カタカナの「コ」の字を描くように、1つ先の横断歩道を渡ってまた戻ってくるのだが。


小走りも、歩いていたら風が心地よくて、もっと風を感じるためについつい小走りになってしまったんですよ、という雰囲気がなるべく醸し出されるように。


人生に余裕を持って、楽しんでいる感じが出るように。


自分が本当に楽しんでいるかどうかはどうでもよい。


周りの人が、「あの人なんだか人生楽しんでるな」と思ってくれたらそれでよい。


それが僕の人生の楽しみともいえる。


次の横断歩道まで、結局200mほど小走りで進んだ。


もうここまで僕を見続けている人はいないだろう。


横断歩道の信号が青に変わるのを待つ。


人生に余裕を持って、楽しんでいる感じが出るように、待つ。


会社にはまた遅刻だろう。

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